お店でお花を選んでいると、ペチュニアでもポットサイズは一緒なのに花色が微妙に違うだけで、値段が全然違う時ってないですか?レジに持って行って値段を言われビックリなんてことも…
それは、そのペチュニアが実生系ペチュニアなのか、栄養系ペチュニアなのかによって価格が異なるからです。このことはペチュニア品種に限ったことではありません。今回は、その理由についてご説明します!
実生系ペチュニアとは?
実生系ペチュニアとは、種から育てられたペチュニアのことです。この場合、花苗生産者(花壇苗生産者)は、種苗メーカーより種を購入し育てて行くのが一般的です。種苗メーカーが販売する種は、基本的にF1品種(1代雑種品種)がほとんどです。F1品種とはある特定の組わせの両親を交雑させて際に、子が両親よりも優れて形質表す品種のことです。
※交雑(異種交配)・・・人工的に異なる種や異なる亜種の植物・動物を交配させて繁殖し雑種を作ること。
※形質・・・生物が持つ性質、特徴のこと。例えば、花色が赤いとか、背が伸びにくとか。
F1品種のメリット
●生育が旺盛で生産性が高く→生育が旺盛で育ちが早いので栽培期間を短縮できる。
●栽培が容易生育が均等→発芽がそろったりや開花時期がそろったりするなどで生育が均等になることで栽培管理や作業がやりやすくなる。
●形質のそろいがよい→株の育ちや、花の大きさなどのそろいがよいこと。
●品種改良が盛んに行われているため、流行しやすい病気を避けやすい。
●上記の理由から大量生産が可能。
F1品種のデメリット
●次世代には形質がばらばらな個体が出現→メンデルの法則により次の世代の形質がばらばらになります。良い形質のものもあれば悪い形質のものもあり、性質に均一性がなく栽培しにくくなります。
固定種の交雑、F1品種の交雑の図解
メンデルの法則って聞いたことありますよね?確か中学生の理科で習いましたね♪
ここではそのメンデルの法則を説明しながら、F1について説明します。赤い花の固定種A(AA)と青い花の固定種B(BB)を交配させた時、交雑させた花の遺伝子は全てABとなります。Aの形質が優勢、Bの形質が劣勢の場合、F1品種(雑種第一代の品種)では優勢の形質のみが現れます。F1(雑種第一代)では優勢の形質のみが出現し、劣勢の形質が出現しないことを「メンデルの法則の1つ:優勢の法則(劣勢の法則)」と言います。簡単に言うと、Aが赤い花、Bが青い花で、BよりA力が強いとABでも強いAの形質の赤い花が咲くということです。簡単に図解で見てみましょう。
※固定種は親→子→孫まで形質が変わらない品種で昔からの伝来種や在来種がこれにあたります。AAとAAを掛け合わせても子は全てAAとなります。生まれてきたAAとAAを掛け合わせても全てAAとなります。簡単に言うと、いくら交配してもAA(赤い花)の形質しか出現しない品種を固定種と言います。
次に上で出たF1品種のAB同士を交雑するとどうなるでしょうか?
F2種(雑種第二代の種)では、上記のようになります。AA、ABはAが強いので赤い花でBBのみ青い花が咲くことになります。すなわち「赤い花:青い花が3:1」で現れることになります。F1では現れなかった形質(ここでは青い花の形質)がF2種で現れることを「メンデルの法則の1つ:分離の法則」と言います。
ということは、F1がいくら良い品種でも親が分からない限り同じものを作り出すことはできません。F1品種は、いかに固定種を作り出すことが大切ですので、品種改良には時間がかかりますが、一度固定種の親を作ってしまえば種の量産が可能になります。種を量産して沢山売ることができれば、スケールメリットがあり種苗費(種代)も安くてすみます。そういったことから、F1品種は比較的手ごろな価格で店頭で販売されています。
栄養系ペチュニアとは?
栄養系ペチュニアとは、挿し木や株分け(栄養繁殖)によって増やす(増える)ものです。簡単に言うと、同じ遺伝子配列を持つクローンです。もちろん種苗メーカーは栄養系のペチュニアも花苗生産者(花壇苗生産者)に販売しています。栄養系のペチュニアは、実生系ペチュニアに比べ価格は高いです。それは、栄養系ペチュニアは維持が難しく、挿し木で増やさないといけない点が関係しています。また、種ができにくい品種であったり、種ができても同じ花色の形質がでない場合などに栄養系品種として挿し木で増やし販売されるケースが多いです。
交配によって良い形質が出た場合、それは必ずしも上記で書いたAAではなく雑種のABの場合がほとんどです。それをAAのように固定種までするのには時間がかかります。ですので、栄養系として挿し木で増やしプラグ苗として種苗メーカーが販売します。栄養系の品種改良の時間とコストは実生系のものに比べてかかりにくいと思いますが、挿し木でプラグ苗を生産するときにかかる人件費や挿し穂をとるための親株の維持などにコスト(例:夏に枯れやすい品種でも冷房などの環境下で親株を維持しないといけないなど)がかかってしまいます。そして、病気などで親株が枯れてしまえば、似たようなものは再現できたとしても、全く同じものができる可能性はかなり少なく生産ができなくなってしまいます。栄養系の品種は、実生系の品種に比べ生産効率が悪く、品種の維持にコストがかかるため、どうしてもそれが販売価格に影響してしまします。
価格の面だけで見ると、栄養系ペチュニアってじゃ高いだけじゃないの?何が良いのと思われてしまいそうですが、ちゃんと良い点があります。それは、良い個性、特徴があるということです。例えば、花色が今までにないようなものだったり、花型が違ったり、株張りが良いものだったりと、何かしら良い個性、特徴を持っています。品種によっては、生産数量も少少ない、希少品種もあります。
品種登録品種とは?
栄養系品種の中には、品種登録された品種が多く存在しています。
先に書いたように、実生系品種の場合、親が分からなければ種を作り出すことはできませんので、花壇苗生産者目線ですと販売価格が安いものに対して人件費とコストをかけて挿し木で生産するメリットが全くありません。ですので、品種登録などを行う必要性も薄いと考えられます。またこういった場合、商標登録などにより販売名の権利を取得し、ブランディングをしたりします。
商標が取得されている場合は、Rマーク(Ⓡ)が商標の横についていたり、商標登録第〇○○○○○○号のように表記されている場合があります。
栄養系品種の場合、メーカーからプラグ苗を購入しなくても、生産者が自分で挿し木で増やし、生産し販売すればプラグ苗代をおさえ種苗メーカーからプラグ苗を購入している花壇苗生産者より安く栽培することができると思われるかもしれませんが、その考えは要注意です。何年も時間とコストをかけて品種改良をした品種を、無断増殖で栽培され、販売されてしまったら品種改良を行った立場の種苗メーカーは、たまったもんじゃありません。そこで大切なのは品種登録です。種苗メーカー、個人育種家(個人で品種改良を行っている人)などは、大切な新品種を作り出したら、販売前もしくは販売(譲渡)1年以内にに品種登録の出願を行います。
品種登録制度(種苗法)とは、植物(花、野菜、果物など)において新品種を育成した人に独占的な権利を与えることにより、その新品種を保護する制度です。品種登録が可能になる品種は、これまでの品種とは異なる形質を持ち、一般的な品種と明確に区別できるもの、また、均一性や安全性が認められた品種のみです。もちろんちゃんと栽培調査などが行われます。新品種を育成・開発するのには、多くの時間、多くの知識、多くの技術、多くの経費が必要です。そして、一生懸命したからといって必ずしも良い結果がでるというものでもなく、そこには運も必要となってきます。そんな苦労のなかでできた、新品種も他人が簡単に増殖できてしまうという問題が発生してしまいます。そのため、種苗法において品種登録をされた品種は、育成権利者の許可なく営利目的の自家増殖・無断増殖は禁止されています。
→詳しく知りたい方はこちら。農林水産省:品種登録ホームページ
品種登録品種の見分け方
では、どのように品種登録品種かどうかを調べれば良いのでしょうか?
基本的に品種登録品種は、「品種登録番号第○○○○○号」や「PVPマーク(種苗法の登録品種(出願品種を表すマーク)」などがラベルに表記されています。
ごくまれにモラルのない方によって無断増殖されたものが勝手に販売されていたりするケースがあったりします。品種登録品種を、個人の方が無断増殖をされ直売所やメルカリなどで販売するのももちろんダメです。また、そのような花苗を購入し、登録品種だと知らずに営利目的で自家増殖した場合も責任を問われることがあるかと思います。品種登録に出願した名前と販売時の商品名が異なっており、いくら農林水産省の品種登録で調べても登録されているのにデータに辿り着けない場合もあります。調べるのに専門的な知識が必要な場合があります。
まとめ
いろんな園芸・農業用語を説明させて頂きましたが、簡単に言うと、実生系ペチュニアと栄養系のペチュニアはその種苗の育種方式、生産方式の違いによってのコスト差がそのまま価格差になります。
どちらかの品種が良くてどちらかの品種が悪いというわけではありあません。実生系、栄養系もどちらも品種が創りだされるまでには、多くの人の努力と時間、また、多くの人々のストーリーが存在しています。ですので、リーズナブルな実生系品種、特別感のある栄養系品種どちらも大切な品種です。
このように、いろんな品種やいろんな価格帯商品があることで植物を選ぶ楽しさ、育てる楽しさも広がります。そして、私達の生活をより豊かにするスパイスとなっています。
シーズンになると全国の園芸店、ホームセンターなどで販売しています。また、ネット販売ですと「The Garden Party(ザ・ガーデンパーティー)」などで購入できます。